月とタコとクブシミの話
ゲノムな話

月とタコとクブシミの話

 電灯潜りでは、今夜が月夜なのか、それとも闇夜なのかが、その日の漁の計画を立てるのにとても重要です。今夜、泳ぐ時間に、月が上がっているのか、それとも沈んでいるのかということです。明かりの無い海の上では、月の光はとても強く感じられます。月夜の晩、晴れていれば昼間と同じように、砂浜の上に自分の影がくっきりと浮かび上がります。魚にとっては、月夜は昼間と同じだと思います。だって、水深40から50メートルも潜れば、海の中は夜と同じくらいの明るさだと思います。そんななかで生活している彼等にとっては、僕等が素もぐりで潜る水深5メートルかそこらでは、満月なんかだったら、深いところの昼間よりも明るいくらいかもしれません。そんな明るい夜には、実際、魚は全然突けません。僕等が彼等を見つける前に、あっちがこちらに気づいて隠れたり、逃げていってしまったりで、魚の漁は上がりません。モリを持って泳いでくる人間が、彼等には遠くからでも見えているのでしょう。

 こちらでは、タコ(ワモンダコ)、クブシミ(コブシメ)、白イカ(アオリイカ)は、月夜に獲れると言われています。

 月夜にタコ・クブシミを獲りに行くと、タコはヤー(巣穴)から出ていますし、クブシミはヤーダイ(根)の上に浮かんでいます。人の水揚げを見ても、闇夜よりも月夜のほうが、タコ・クブシミに関しては圧倒的に水揚げは多いようです。

 まずはタコですが、闇夜には、タコがヤーから出て歩いているのはあまり見ません。ぜんぜん見ないというわけではないのですが、明らかに闇夜は出不精になっていると思います。闇夜に見るタコというのは、何かの拍子に覗いたヤーダイの穴などに、タコが白くなって丸まって見える場合が殆どです。タコはじっとして、眠っているように見えます(腕で穴にふたをしているような格好なので、あいにく顔は見えませんが…)。
 一方、月夜には、一番よく見るのは、自分のヤーから体を半分くらい出して、体にはトゲトゲを出して、完全にヤーダイの岩肌やサンゴに化けてこっちをジーッと見ているタコです。自分の擬態に相当の自信があるのか、動いたらバレると思っているのか、こちらがかなり(手で掴めるくらいの距離まで)近づいても逃げません。実際、慣れないと、擬態しているタコは、目の前30センチにいても気が付きませんが、慣れた人ならすぐに見つけます。タコは、「バレタかな?」と思うのかどうか知りませんが、じっと見ていると、やがてソローッと、ばれないようにゆっくりと体をヤーの中に引っ込めていくのですが、こちらがちょっと岩陰に隠れたり、相手の目線より下に潜っていくと、よく見ようと、再びソローッと体を穴から出して、背伸びをするようにこちらを覗き込んで来ます。

 次にクブシミですが、クブシミ獲りは、月夜に、確実にいると分かってるところ、いわゆるクブシミのヤーといわれるスガイデウル(ユビエダハマサンゴ)のまわりを回るのですが、スガイデウルにもいろいろあって、枝と枝の間隔や、サンゴの群体の大きさ、まわりの地形など、クブシミにとって、卵を産み付けるのに最適のスガイデウルがあるようで、たくさんある中でも、毎年決まったスガイデウルに卵は産み付けられます。そういうヤーをよく覚えておいて、時期になるとその周りを泳いでクブシミを探して回ります。そうすると、クブシミがボヨヨ〜ンと言う感じで浮かんでいます。毎晩電灯潜りが来て、追い掛け回されてる場合は、ビューンと飛んで逃げて、前に進んだり後ろに進んだり、グッと曲がって見たり、スミを吐いてみたり、かなりトリッキーな動きでフェイントをかけながら逃げます。スミを吐いて、煙幕に隠れながら真っ直ぐ海底に降下して、底に張り付いてサッと擬態して海底に化けることもあります。だけど、あまり人にやられていない所のクブシミは、ライトを向けられると、まるで目がくらんでしまったかのように動けません。ただ、ゆっくりゆっくりジワジワと後ずさりするだけです。
 一方、闇夜のクブシミですが、実は僕は結構闇夜にクブシミを獲るのです。最近は、闇夜の方が獲っているかもしれません。クブシミは闇夜には、確実なクブシミのヤーに行ってもあまり獲れないのですが、同じ所をぐるぐる回っていると、さっきいなかったところにボヨヨ〜ンと、月夜みたいに浮かんでいることがあるんです。また、2人で泳いでいると、同じ所をゆっくり後から泳いできた人がクブシミを獲っていることがあるのです。クブシミの擬態は、僕的には、タコにくらべてほぼ完璧で、浮いていないクブシミの擬態はまだ数回しか見破ったことがありません。クブシミは擬態できるのが恐らく上面だけで、下面はいつも白いので、浮いているのを遠くの方から、横から照らすと白い下側が光って見えるのです。それに、上から照らしても浮いていればライトで照らすと海底に影が映るんです。また、浮いているときは潮に流されないように胴の両サイドのひだをウネウネ動かしています。だけど、海底にへばりついているクブシミは、ピクリとも動かない上に、パーフェクトにまわりの地形と一体化しています。先輩の達人でさえ、見つけても、前後が分からなくて、胴の先っちょのとんがった所を突いて逃がした話も聞いたことがあります。おそらく、闇夜にはクブシミは底に張り付いているんだと思います。僕等は気づかないで上を通り過ぎて行ってるのです。だけど、何回も灯りで照らされると寝てたのが起きるのか、やばいと思って移動し始めるのか、とにかく浮くんだと思います。闇夜でよくあるのは、クブシミを見つけて電灯で照らしていると、ちょうどクブシミの目の前に魚がいたりすると、長手をピュンと出して、その魚にクブシミが襲い掛かるのです。まるで、「おや?ちょうど見やすくなった。ちょっと魚照らしててよ!」って感じで…。

 もしかしてタコ・クブシミは闇夜は寝てるんじゃないかと思うんです。彼等は結構目に頼って生活してる感じがするので、真っ暗な闇夜は何にも見えないから人間みたいに寝てるのかも知れません。それと、クブシミは甲羅が浮力体になっていて、死ぬと浮きます。多分、どこかに力を入れてないと浮くんだと思います。クブシミには魚の浮き袋みたいな浮力を調節する器官はないみたいな感じなので、眠ってて、灯りで照らされるとなにかショックで寝ぼけて浮いてしまうのかもしれません。

 なんだか変な話になってしまいました.。月とタコとクブシミのお話でした。

ゲノムな話

 うみんちゅが普段一体どういう会話をしていると思いますか?
 結構うみんちゅって哲学的な話をしてるといったらどう思いますか?
 僕もこの仕事をはじめて結構すごい話してるんだなあと驚いたことがあります。

 この前、僕の師匠とクチナジ(イソフエフキ)の話をしてた時、最近は魚の産卵する大きさが小さくなってきていると言う話になりました。どういうことかというと、昔はこんな小さなクチナジは卵を産まなかったというのです。それが今ではこんな小さいのでも卵を持ってるから不思議だというわけです。大きいのはみんな獲られてしまうから、小さいのが卵を産むようになってしまったんだなあ。と。

 僕は昔のクチナジなんてわからないけど、話しているうちに、つまりこれは魚が進化(?)した話をしているのかなと思いました。大きくなる遺伝子を持ったクチナジは、すぐに人間に狙われてしまうものだから、大きくなるクチナジは人間に淘汰されて、大人でも小さいクチナジが残ったというわけです。そんな何十年かの間にそんなに淘汰が進むかなあとも思ったけど、しかし分かりません。人間の漁獲圧力と言うのはものすごいし、沖縄本島ではクチナジはほぼ絶滅してしまったということもあります。

 そんな話から発展して、医学の進歩は本当に人類のためなのだろうか?という話になりました。現代の人類は、医学によって、死ぬべき人が死ななくなってきている。自然淘汰によって自然が人類を進化させるべきところが、科学と言う力で、目先の長生きのために、人類にとって良くないことをしてるんじゃないか。という話です。だけどそれって身内に病気の人とかいてもそんなことが言えるのかなあ。というと、それはそうだけど、こういうのは情けで解決できる問題ではないはずよ。う〜ん。なるほど。そこらへんがもしかして遺伝子操作や精子バンクとかの危険な部分にからんでくるわけかな。自然の淘汰じゃなくて、人間の力で淘汰して進化していこうという…。

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